あすかこんにちは、あすかです。
今回は前回に続き、Steamセールで買った短編ADVの中から2本目。
『HYMER2000(ハイマー2000)』をクリアしたので、簡単に感想を書いていきます。
なんとなく『2001年宇宙の旅』のHAL9000を彷彿とさせる名前・ビジュアルに脊髄反射で購入した本作。
全く宇宙物ではなく、思っていた物語とは違いましたが、胸を打つ良い作品でした。

記事のラスト以外では物語の核心には触れないつもりですが、ネタバレを一切見たくない人はここでブラウザバック推奨です。
クリアまでのプレイ時間はおよそ3時間。
上質な短編SFを読み終えたあとのような、静かで心地よい読後感が残って、とても満足です。
ほぼワンコインで買えるので、この内容ならSF好きには素直におすすめできます。
概要
これは公式ページからの引用
『ハイマー2000』はAI会話型謎解きゲームです。あなたは回収員フランクを操作し、荒廃した「希望の家」へ向かい、人工知能「ハイマー2000」の回収任務を行います。
ハイマーと自由に対話でき、選択肢に制限はなく、任意のキーワードを入力してハイマーと人々との過去の会話記録を検索できます。
80枚の奇妙な「肖像」イラストは希望の家のあちこちに散らばっている、変えることのできない埃まみれの過去をつなぎ合わせ、最終的にハイマーが守り続けてきた秘密を解き明かします。
と、事前情報としてはこれくらいで、始める前はどんな物語なのかほぼ分からない状態でした。
人物イラストなどはなく、基本的にはテキストを読み進めていくだけのテキストアドベンチャーです。
ゲームの流れ
プレイヤーは今は廃墟になっている『希望の家』という施設に到着するところからスタートします。

かつて希望の家には、たくさんの子どもたちと、その監視者であるAI ハイマー2000がいました。
子どもたちはAIの管理のもと、規則正しいルールに沿った生活を送り、一見すると何不自由なく暮らしていたように見えます。
しかし現在、施設はすでに廃墟。それでもなおコントロール室ではハイマー2000だけが稼働していて、プレイヤーの目的はそのハイマー2000を回収することです。

ハイマーがいるコントロール室に辿り着くまでは基本一本道なんですが、その道中で、
- 「肖像」から施設の過去を掘り起こして追体験する
- 会話ログの「検索」から、物語の断片を補完していく
という形で、少しずつ「この施設で何が起きていたのか」が見えてくる構造になっています。
「肖像」と「検索」
本作のゲーム体験を作っているのは、やっぱりこの2つ。
肖像(イラスト)

施設のあちこちに散らばっていて、集めることで「過去の断片」が見えてきます。
雰囲気アイテムではなく、物語の重要なピースとして機能しており、この肖像を繋ぎ合わせることで物語の全体像が浮かび上がってきます。
検索(会話ログ)

キーワードを自由に入力して、AIと施設の子供達の過去の会話ログを掘ることができます。
進行上も、道が壊れている箇所を復旧するために「一定数の検索ワードが開示されている状態」が必要なので、ストーリーを追うだけではなく、ある程度はログを埋める必要がある作りになっています。

この「進行のために検索が必要」という設計がうまくて、だいたいの場合は
肖像でヒントを拾う → そのワードを検索する → 会話ログで補完できる → さらに肖像が意味を持つ
という流れで、自然と知識がつながっていき、プレイヤー側の理解も整理されていきます。
検索の自由度が、体験に個人差を生む
この検索はいつでも自由に好きなワードで出来るので、プレイヤーによっては
- まったく想定外のログを引いてしまい、急に不穏な情報が開示される
- かなり核心に近いログを序盤で引けてしまう
みたいなことも起こります。
基本的マップに落ちている80枚の肖像を集めていくことで、順番に物語を追えるような構造なので、進めていけば自然と話を理解できるようになっています。

しかしその一方で、プレイヤー次第で検索によって “気づきの順番” が変わるのも面白いところでした。
すでに“終わっている”過去を辿るだけ
個人的に好きというか、とてもエモかったポイント。
本作は、たとえば現在進行形で続く問題だったり、解決しなければいけない事件があるわけではなく、すでに終わってしまった出来事を記録から辿る物語なんですよね。
もう過ぎ去ってしまったことは変えられない。プレイヤーができるのは、過去に起きた出来事を、AIハイマーの記録から静かに追うことだけです。

このどうにもできない感じが、個人的にはすごく心地よかった。
そこで確かに生きていた少年や少女たちの人生に、想いを馳せるほど胸が締め付けられるのに、決して手は届かない。公式が言うところの“変えることのできない埃まみれの過去”というやつです。
BGMも物悲しく美しい切ない曲で、聴いていてすごく落ち着きます。
廃墟を探索するという行為とも相まって、切ない空気感がとても良かった。

そして最後、ハイマーを回収してエンディングを迎えたとき、心地よい意味での静かな虚無感や無力感が残りました。
冒頭でも書いたとおり、500円で遊べるSF作品としてかなり満足度は高かったので、気になった方はぜひ遊んでみてください。
以下に、より核心的な話も一応書いておきます。
これを読んで逆に気になるという人もぜひ遊んでみてね。
ここから核心ネタバレ(どういう話か知りたい人向け)
結論から言うと、施設で暮らしている子どもたちはクローン人間です。
その目的は医療用。
本物の人間で臓器や手足の移植が必要な人向けに生み出された、いわば“医療品”。そこに人権はありません。
本作は、人間とクローン人間の線引きは何か、というある意味SFでは普遍的なテーマを扱ったゲームでした。
施設内では傷や病気にならないよう丁寧にAIによって管理され、時期がくると「提供」という名のもとに移植手術が行われます。
提供は一度ではなく、子どもによっては二度三度と行われ、少しずつ身体の一部が失われていく。
しかし、クローンの子どもたちも普通の人間と同じように感情がある。
そんなことが日常的に起きていれば反乱が起きそうなものですが、提供によっていなくなってしまった子どもは「新生」と呼ばれ、名誉あることとして扱われています。
さらに、その新生された子のことを自動的に忘れるように脳を設計されているので、苦楽を共にした友との思い出ですら、消えていってしまうんですよね。
子どもたちの良き相談相手でもあったAIハイマー2000は、それらすべてを記録している。
そして、ただの人工知能であるハイマーは、回収される間際に何を想っていたのか…。
そこは、ぜひプレイして確かめてみてください。
とても切なく、とても美しい物語でした。
余談:元ネタについて
クリア後に調べて分かったのですが、本作の物語には元ネタがあり、カズオ・イシグロという方の『わたしを離さないで』という小説だそうです。
あらすじをざっと見た感じ、結構そのままで驚きました。
ただ、ゲーム中にも「カズオ・イシグロ」というワードが出てくるので、これは公式に許可を得て元ネタとしているのか、オマージュと言えるのか…この辺は深く調べていないので分かりません。
いつか原作も読んでみたいですね。
あすかではまた、あすかでした


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